議員ための自転車勉強会in金沢
金沢ITビジネスプラザ研修室

※全国自転車利用環境向上会議が、毎年秋に全国各都市を巡回して開催され、多くの自治体の政策担当者や地方議員、大学教授などの識者、自転車関連の事業者や愛好家の方々が参加されておりますが、自転車政策の発展のため、向上会議の方々が地方議員のための勉強会を企画され、石川県金沢市で開催されました。光栄にも京都市の政策を紹介してほしいとのオファーを頂戴し、約30分の時間で講演させていただきました。長い原稿ですが、貴重な経験なのでほぼ全文を掲載します。
【はじめに】
皆さんこんにちは。只今ご紹介いただいた京都市会議員の吉田たかおと申します。本日の勉強会では、様々な地域の自転車政策を学ぶことが出来るものと、大いに期待して参加させていただきました。
自転車の重要性に着目し、地域の安心安全に資するために奮闘する議員さんたちと切磋琢磨することは、ホンマに刺激になりますし、新たな発見もできるので、これからもこのような勉強会を企画していただければ、こんな嬉しいことはありません。
さて、本日は「京都市の自転車政策」を紹介させていただくこととなり、大変に光栄に存じております。私、実は議会の副議長を務めておりまして、午前中にプラハ市との姉妹都市30周年記念式典に出席して、調印式に参列したり、レセプションで烏龍茶の乾杯の音頭をとったりする公務があったため、自分の出番ギリギリで先ほど駆け付けた次第です。どうぞ、よろしくお願いいたします。
【自己紹介】
まず自己紹介をさせていただきます。私は、昭和37(1962)年に京都市上京区で生まれました。現在63歳でございまして、大阪芸術大学芸術学部卒業後、大阪のIT企業で21年間勤務し、2007年に初当選。現在5期目でございます。
日本酒で有名な伏見区の選出です。皆さんが京都市に視察にお見えになったら、ぜひ美味しいお酒を飲みに伏見に来ていただきたいと思っております。議会におきましては、京都市会交通水道消防委員長、市会改革委員会副委員長、市会運営員会いわゆる議運の理事などを歴任させていただいております。
また、自転車活動研究会の勉強会や、全国自転車利用向上会議に何度も参加させていただいた関係もあり、全国自転車議員ネットワークの理事に加えていただいています。名前だけの「幽霊理事」かもしれませんが、これからは心を入れかえて、精進したいと思っております。
市会における議連では、文化芸術振興議員連盟にも所属しています。芸大で学んだという、ちょっと変わった経歴だからなのですが、実は学生時代の私の寮に隣接した寮に、なんと「エヴァンゲリオン」の監督も住んでおられたらしいです。お互い知らなかったですし、先方は今も私のことをご存じないことは言うまでもありません。(笑い)
卒業後は畑違いかもしれませんが、パソコンが普及する草創期のIT業界に身を投じ、パンフレットやマニュアル、販売促進資料などの制作に携わると同時に、中小企業や町工場などの業務改善のお手伝いをするコンサルティングングなどにも従事し、日本中を走り回っておりました。
バブル崩壊後の「失われた20年」に、必死になって家族を護り、毎日が戦場のような過酷なIT業界で踏ん張ってきましたが、劇場型政治のポピュリズムが横行する社会に一石を投じる決意で20年前に議員にチャレンジし、今に至っております。大変光栄なことに、2011年に『京都市自転車安心安全条例』という書籍を発刊しました。文学少年出身としての唯一の著作が、自転車政策がテーマでございます。この点は、あとで詳しくご紹介します。
【京都市の自転車政策の課題】
ここから、京都市の自転車政策の前進について、レジメに沿って述べます。まず1点目に、私が当選した約20年前の京都市は、どのような自転車安全対策の課題をかかえていたかについてです。
2007年当時は、全国的な傾向だと思いますが、自転車のマナーが悪化し、放置自転車が慢性化するとともに、自転車に関連する事故が増加続けるなど、諸課題が深刻化していました。 また、当時は今以上に自転車保険に加入している方が圧倒的に少なく、被害者も加害者も不幸になってしまうことが余儀なくされる状況で、車中心の社会で自転車を守ろうという気運がほとんど無かった時代でありました。
私の知人のお母さんが歩道を歩いているときに、後ろから猛スピードの自転車に追突され、首から下が動かなくなる重い障がいを負ってしまったという、きわめて深刻な経験を通して、自転車の安全対策や気運の醸成、安全教育の重要性や道路環境整備を求める市民の声に、何とかお答えしたという思いを強くしていたところでございました。
【議員提案条例への挑戦】
2点目の大きなポイントは、その当時は「議会への不信」が高まり、議員不要論がエスカレートしていた時代であったということです。タレント出身や元国会議員など、知名度が高く発信力の強い首長が「議員なんか役に立たない」とか「議会は改革の抵抗勢力だ」と決めつけ、大々的にマスコミで取り上げられるという、今から思えば「ポピュリズム」が勃興したような実態でしたが、こうした状況に対して、私は大きな危機感を抱きました。
議会への信頼が損なわれてしまえば、市民の声が行政に届かなくなってしまうからです。そこで、「議会改革」を口先ではなく具体的に進め、「議会活性化」を加速していこうと決意し、議会報告会であったり、議員間討議や見える化推進など試行錯誤する中で、「行政への注文で終わらず、政策立案に挑戦しなければならない」との思いで「議員立法」すなわち議員提案政策条例にチャレンジすることとなり、そのテーマを「自転車政策」に決定したのです。
京都市自転車安心安全条例案を2010年9月議会に上程し、私が提案者として本会議で議案説明に立ちました。付託された条例案が常任委員会で質疑されたとき、普段は質問しかしない議員が答弁をするという、京都市会では初めてのスリリングな出来事が現出しまして、私たち提案側も「想定問答集」を徹夜で作って準備しましました。先輩議員の強烈な突込みが絶好のスパーリングとなったことも功を奏して、他会派の議員さんたちとの真摯な議論の結果、京都市会110年を超える歴史で初めての議員立法「京都市自転車安心安全条例」が制定されたのでございます。
【自転車条例制定の意義と反響】
なぜ条例にしたのか。それは、市民ぐるみのルールづくりという側面が大きいのですが、同時に、市民の皆さんお1人お1人に課題意識を共有していただき、他人ごとではなく自分ごととして、自転車の問題に取り組んでいただこうという思いがあったからなのです。
自治体では様々な施策について「推進計画」が作られますが、それに対して市民側の意識が「これが足りない」とか「これをやってほしい」という要求が続くだけになってしまえば、不満が残ることもあり得ますよね。それと比べて、条例には「市の責務」とともに「市民の責務」「市民の役割」が定められています。条例の制定が、市民協同で自転車政策をすすめていこうという課題を共有していただく契機となったと思います。
もう1つの大きな意義は、議員提案条例という手法によって、「縦割りの弊害」を克服したことです。国会でも地方議会でも縦割りは避けて通れません。自転車政策では、その課題がモロに出てしまっており、駐輪場・道路整備・学校教育・マナー啓発・商店街の安全・障がい者バリアフリーなどなど、多岐にわたることで行政の所管が分かれていますので、悪い言い方をすれば「責任の擦り付け合い」になりかねません。
中小企業振興や地球温暖化など、ある意味特化した政策であれば、所管の部局が単独で条例化を進められますが、自転車の場合は複数部局にまたがるため、執行部局に条例化を訴えても、すり合わせに時間がかかりすぎて、なかなか前に進まない懸念があったのです。京都市条例の場合は、われわれ議員がコーディネーターとして、強力にリーダーシップをとったことで、半年間の調査研究期間で制定を実現することができました。まさに、議員提案だからこそ、時宜を得た政策実現が可能になった、と胸を張って申し上げることができると確信します。
条例制定の結果としまして、不法駐輪がほとんどなくなりました。自転車走行レーンが飛躍的に拡大し、地域の実情に合った環境整備が大きく前進しました。またマナー啓発では、実効性の高い取り組みが各地域で工夫され、それが年々レベルアップしています。保険義務化が前進しましたが、京都市条例もその潮流に対応して条例改正を図るなど、柔軟かつ迅速に施策推進が軌道に乗っています。
こうした目に見える実績が注目され、全国の自治体関係者が京都市に視察にお見えになったり、私が各地のセミナーに講師として招聘されたりしました。地元の弁護士会の勉強会にも呼ばれたり、全国的な自転車関連雑誌にも取材を受けましたが、こうした各地のセミナーの内容を多くの議員さんに共有したらどうかというご提案を受けたことで、先ほど紹介した書籍が発刊されたのです。
ちなみに、この書籍では「印税」をいただいておりません。そんなに売れない内容だからということもありますが、政策立案と条例制定のプロセスを共有しようという趣旨なので、そういう約束での出版となったからなのです。発行時に数10冊を分けてもらったのですが、現在その会社が廃業されたので、手元には2冊しか残っていません。したがって皆さんに差し上げることは、したくでも出来ませんので、どうぞご安心ください。(笑い)
【京都市の交通安全への政策】
京都市は、ありがたいことに自転車政策のトップランナーとして評価していただいていまして、全国の自治体から視察を受け入れたり、全国自転車利用環境向上会議で安全教育の成功事例として、分科会やポスターセッションなどで紹介していただいております。
このことを行政側も、ある意味「誇り」を持ってくれていまして、決算書には大きめのスペースで政策の成果が掲載されていますし、予算書にも必ず具体的な説明を加えて拡充しています。そしてそれ以上に大きいのが、市民の皆さんの意識が深まり、様々な声が数多く寄せられていることです。こういう気運が高まっている事実が、私個人として大変にうれしく、手ごたえを実感しているところです。
まさに、条例が市民ぐるみの「自分ごと」として定着して、具体的な施策の前進が目に見えて共有されている、このように思っております。具体的には、大宮交通公園の老朽化に伴う次期計画を募った際に、ほかの用途も候補に挙がった中で、最終的に「やっぱり自転車が大事!」となって、本格的なサイクルセンターが常設されたことでして、青切符制度導入を機に警察庁の幹部も視察に来られたそうであります。
また、自転車レーンが倍増するなど、計画的に事業拡大が実現しておりまして、これも市民の皆さんにとって「目に見える」前進と言えると思います。10年前の段階では、理事者側が「すでに出来ております」「これ以上は予算が足りないので・・・」というスタンスだったのですが、条例制定後は年次計画も具体化し、学校統合や駅の移設、大きな事故が発生した、といった最新の地域事情を踏まえた柔軟な予算化が推進されていると受け止めております。粘り強く議会で訴えた甲斐があったと実感します。
私は自分としては、そんなつもりは無いのですが、常任委員会や予算委員会で手を挙げたとき、理事者側がハッと身構えて自転車のページを開くとか、あるいは他会派の議員から「今日は自転車取り上げへんのか?」と聞かれるとか、そんなことがあります。(笑い) このように、継続的に粘り強く、ある時は丁寧に、ある時はシビアに、議会の場でも平場でも、情報を求めたり提供したりして、理事者と政策を語り合っています。これは今後も続けたいと思っています。
また、「ライフステージに応じた自転車安全教育」が多角的に発展していることが、全国的に大きな注目を集めています。各都市で定着している小学生の安全教室だけではなく、未就学児と保護者対象に拡大しておりますし、中学生には自活研の藤本理事のご尽力で「見て分かる自転車安全教室」が大好評です。私が何校か見学した時ビックリしたのが、思春期の中学生が誰1人居眠りせず、私語もなく真剣に聞きいっていることでした。また、中学の副読本にも自転車安全の項目が掲載され、必ず授業に取り入れられています。
そして、駐輪場を大型交差点や駅前にも整備したことで放置自転車が激減したこと、保険加入率が飛躍的に増加したことは、時間の関係で詳しくは述べませんが、いずれにしても多角的な政策が実を結んでいることが特徴だと申し上げます。
【今後の課題】
最後に、今後の課題について申し述べたいと思います。1点目は、自転車安全利用への意識を、前に進めるという「進化」と一層深めていくという「深化」、つまり2つの「しんか」を図るときである、ということです。青切符制度本格導入を機に、今以上に力を入れる丁度よいきっかけにしていく必要があると、同僚議員や理事者の方々と語り合っています。ポイントは「市民協同」と「粘り強く」と思っております。
2つ目は、政策の継続と発展、時代を先取りする進取性が大事だという点です。条例を改正するとか、事業計画をバージョンアップするとか、様々な機会を敏感にキャッチし、受け身にならずに先手を打つ、こういう政治姿勢を心掛けるべきではないか、と考えております。
ちょうど時間が来ました。最後に第3番目の重要課題を申し上げて終わりたいと存じます。それは何かと言いますと、議会における「同志」というべき議員を拡大しなければならない、という問題意識なのです。
議会の中で自転車問題を論じる議員が自分だけ、となるのが1番危険ではないでしょうか。「自転車はあいつが専門だから自分はほかの政策をやろう」という議員心理があると思います。議会において超党派で同志を増やす、つまり独占するのではなく、オープンな議論を展開することを心掛けないと、どうしても限界があり、発展が見込めません。そのことを自身の戒めとして申し上げて、この場での発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。
(自転車先進都市・金沢市で行われた画期的な勉強会は、これからの草の根レベルの施策拡大に、大きく貢献すると確信します。突き抜ける文化首都を志す京都市の重要政策の1つと確信して、これからも頑張っていこうと思います)
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