私の大好きな本の数々をつれづれに紹介します。

「日本を変える! 若手論客20の提言」 田原総一朗

2014年9月9日

この「おすすめ読書」のページが1年以上更新できず申し訳ありません。フェイズブックやツイッターなどのSNSを始め、情報発信作業の手がとられてしまったのが理由です。でも、1年たってようやく慣れてきました。これからは、公式ホームページやブログも随時ガンバっていこうと思っています。

2012年の元旦に放映されたNHKの『新世代が解く! ニッポンのジレンマ』という番組に衝撃を受けて以降、瀧本哲史、坂口恭平、古市憲寿、宇野常寛といった若手論客に注目し、彼らの著作を買い込んでいるのは、以前にも書きました。

『朝まで生テレビ!』の司会でおなじみの田原総一朗が、総合雑誌『潮』で20人の若手論客をゲストに招いて対談する連載があり、折に触れて読んでいたのですが、今年に1冊の本として出版され、さっそく購入して何度も繰り返し読んでいます。

私が、彼らに注目しているのは、激動の時代の転換期にある今、若い世代が社会を大きく変革していくムーブメントが迫っていると実感しているからです。大げさかもしれませんが、幕末維新の激動期に佐久間象山や吉田松陰のような若き思想家が命がけで時代を論じて若者の心に火をつけたのと同じように、21世紀の現代に古市氏や瀧本氏たちが出現したのではないかと感じているくらいなのです。

本書で繰り広げられる対談のホストである田原総一朗は、『朝まで生テレビ』などの討論番組でゲストの発言を途中で遮ったり、自説を滔々と語ったりするシーンが多いという印象があったのですが、この対談集では違いました。時代の最先端を走るトップランナーたちへの熱い思いがほとばしり、積極的に引き出していこうという情熱がヒシヒシと伝わってきます。なにより、柔軟かつ斬新な可能性に純粋に感動しながら語り合うフラットな基本スタンスが素晴らしいと実感しました!

万言を費やすより、代表的な対話の一端に触れた方が良いと思いますので、ダイジェストを抜粋して紹介します。

まずは、社会学者・古市憲寿(1985年生まれ、2011年「絶望の国の幸福な若者たち」で注目を集める)との対談です。

田原: 僕がこの「絶望の国の幸福な若者たち」でいちばん気になるのは、「絶望の国」という言葉なんですよ。僕はいまの日本が「絶望の国」だなんて、まったく思わない。そんなのは、頭の悪いオヤジが勝手に言ってるだけの話ですよ。あなたは若いのに、なんでオヤジの真似して「絶望の国」なんて決めつけるの?
古市: 僕自身は、いまという時代は若者にとってすごいチャンスだと思っています。こんなに自由な時代は歴史上なかった。たとえば、僕がかりに20年早く生まれていたら、友達とベンチャー企業を起こしたり、働きながら大学院博士課程に学んだりすることはできなかったでしょう。いまだからできたのです。僕がこの本でいう「絶望の国」というのは、「日本が既存の仕組みのまま進んでいくとしたら、絶望しか待ってないぞ」というほどの意味です。
田原: じゃあ、この本のタイトルの「絶望の国」というのは、馬鹿なオヤジたちが言ってる絶望のシステムの仲間入りはしないよ、という宣言なのね?
古市: 僕個人の思いとしてはそうですね。ただ、若者の中には、その絶望のシステム-たとえば大企業の終身雇用制の中に入りたいと思っている人はまだたくさんいるはずです。その人たちにはたぶん絶望的な人生が待っているでしょうが、そうではない場合、いくらでも可能性があると思っています。
田原: なるほど、それでよくわかった。

次に、日本史研究者・輿那覇潤(1979年生まれ、2011年「中国化する日本」で注目を集める)との対話です。

田原: 日本が「中国化」するということは、何がどう変わるんですか?
輿那覇: 共同体が維持できなくなって自由競争になるわけです。既得権益集団同士で互いに牽制してそこそこの平等を維持する江戸時代以来のやり方は、通用しなくなります。
田原: じゃあ、いわゆる「小泉改革」も、じつは「中国化」だったんだ。(略) 「中国化」する日本は、これからどんな道を進んでいったらいいですか?
輿那覇: 世界が認める日本ならではの価値観を構築していくことが重要でしょう。そのためには、日本国憲法の平和主義が持つ国際性が大きな武器になると思います。従来の護憲主義は江戸時代の発想だったので、「よその地域には関わらないことが平和維持だ」と思っていた節があります。でも、これからはもう通用しないわけだから、鎖国的ではない理念に日本の平和主義をどうつなげていくかを模索すべきだと思います。

田原:

これからの世界は、端的に言えば「アメリカと中国の世界」でしょう。日本がその中で生きるには、中国とアメリカをつなぐ役割を果たすべきだと僕は思っています。憲法はそのための武器になりますか?
輿那覇: なると思います。国内で9条を守れというだけでは江戸時代型の護憲論ですが、それを国際条約にしてもいい。憲法9条を専守防衛協定化して、アメリカや中国にも調印させる。「乗りたい国はどこからでもどうぞ」とやるんです。なんなら、北朝鮮が調印してもいいでしょう。
田原: 面白い発想だ。やっぱり、若手の論客は発想が自由で楽しいね。

最後に、多摩大学専任講師でノマドワーク&ライフスタイルを実践して注目の安藤美冬(1980年生まれ)との対談です。

田原: ノマドワークというのは、カフェとかいろんな場所で仕事をすることでしょう? (略) ノマドワーカーっていまでこそカッコいい流行語になっているけど、要はフリーターみたいなもんじゃない。一般的には、ノマドを名乗るのは損だよね。「自分には何もない。社会的信用がない」といってるようなもんだ(笑)。それをあなたがあえて売り文句にしたのは、どういう戦略があったわけ?
安藤: 私には、「時代はこれからノマディズムのほうに行く。身軽でシンプルな暮らしがクールだとされる時代がくる」という確信がありました。たとえば、断捨離がブームになったりするのは、人間は物を持たない方向に向かっているという証拠だと思うんです。
田原: なるほど。時代の波はノマドに向かっている、と。
安藤: ええ。見栄を張るために無理して高い車を買ったり、物をたくさん所有して見せびらかしたりすることは、もうクールじゃない、カッコよくないと思うんです。
田原: あっ、見栄を張ることはいまはカッコ悪いんだ?
安藤: カッコ悪いと思います。
田原: 今までの大人たちは、「いかに見栄を張るか」で勝負してきたところがあるよね。
安藤: そうですね。でも、もうそういう時代じゃないと思います。見栄を張って自分を飾り立てるより、飾りを削ぎ落とした素の自分で勝負するほうが、いまはカッコいいんです。
田原: ノマドワーカー・ブームの背景には、そういう時代の潮目があるんだね、いや、これは目からウロコでした。

ねっ、ゾクゾクするような丁々発止のやり取りでしょう? それ以外もいっぱい紹介したいのですが、あまりにもバラエティ豊富すぎて長すぎる文章になってしまいますので割愛します、ぐすん。

聡明で知性にあふれた人の言葉に触れると、自分も賢くなったような気がしてきますよね。それと同じ感覚が味わえること間違いなし。実際、私自身も前頭葉がぺきぺきと音を立てているのが感じられるくらいでした。ぜひ、お勧めです!